「ほらね」
薫は勝に確かめるように言った。


「いいや、香だ。そうか、そう言うことだったのか。だから翼を……」
勝は悲しそうにその目を閉じた。

勝の頬に涙が流れる。


翼にはこの光景は辛く映った。
でもどうすることも出来ずに……

陽子にすがり付きたくなって、目で探したみた。



 「あれっ! 陽子は?」
翼が見回す。

気が付くと陽子が居なくなっていた。

病院の隅々まで見渡しても、陽子の姿はは何処にもなかったのだ。




 「あれっ、陽子!?」

何気に庭を見た純子が言った。


翼は慌てて、純子の視線の先を見た。


其処には確かに庭を走っている陽子がいた。


翼は純子に勝を頼んで、病室を後にした。




 急いでエレベーターに駆けつけ間違って上のボタンを押す。


その間違いに気付いて慌てて下のボタンを押す。


翼はイライラしながら暫く待っていたが、シビレを切らして階段を探しにその場を離れた。

その直後にエレベーターのドアが開く。


翼が慌てて戻った時に、ドアは閉まっていた。




 翼はもう迷わずに、階段を駆け降りた。


翼は陽子の後を必死に追った。

さっき陽子の走って行った方向に何があるのか翼知らない。

でも勝が一番喜ぶことだと解っていた。




 走っても走っても陽子に追いつけない。

翼は途方に暮れていた。

それでも翼に不安はなかった。


(陽子のことだ……)

翼は次の答えを探した。


でも出て来なかった。



 途中で大きな袋を抱えた女性に遭った。

荷物で顔が隠れていて、誰なのか解らない。


でも翼は陽子だと思った。


袋の中から少しだけ見えていた物があった。

それはきっと勝が大喜びするであろう品物だと思った。

本当は勝だけではない。

翼本人が一番嬉しかったのだ。




 翼は陽子を後ろから抱き締めた。


陽子は突然の翼の抱擁に驚いて、抱えていた荷物を落とした。


袋の中で、ウエディングドレスが揺れた。


「ありがとう陽子!」

翼は陽子に感謝の気持ちを捧げながら、陽子を抱き締め続けた。




 このままでいたかった。


ずっと抱き締めていたかった。


陽子も同じだった。

でも陽子は翼の手をそっと外し、ウエディングドレスの入った袋を抱えた。