陽子はその足ですぐ堀内家に戻った。

勝が心配だったからだ。
翼を信用していない訳ではないが、そのままにしてはおけなかったのだった。


陽子はまだ武州中川駅近くの木村家に居た。
翼と同じ家で暮らすなんて出来なかったのだ。




 陽子がチャイムを押す。
翼はモニターを確認して舞い上がった。

家に帰ったとばかり思っていた陽子がその映像に映し出されていたからだった。


慌ててドアを開けると、陽子は又太陽光に包まれていた。


「天照大神……」
そう言ったのは勝だった。
勝は玄関脇の仏間にベッドを入れて生活をしていたのだった。

翼の部屋を確保するためではない。
勝自身が亡き妻幸子と共に居たいと望んだからだ。

勝は幸子を愛していたのだった。


翼は何度も頷きながら、勝に視線を送った。


(そうだよお祖父ちゃん。陽子は僕の女神様なんたよ。天照大神って言う日本の女神様なんだよ。お祖父ちゃんにとってもきっとそうなんだね)

翼は嬉しくなって、陽子を仏間に招き入れた。


陽子は幸子の遺影の前で合唱した。


その後の奇跡を陽子は目撃することになる。

なんと陽子のバックの中からホワイトチョコレートが出てきたのだった。
入れた覚えもない。
買った覚えもない。
それなのに……


それは幸子が陽子に託した奇跡だと思った。


「翼ごめんね。やっぱりおじさまと一緒に食べて」
陽子は嘘を言いながら、裏にクッキー付いたホワイトチョコレートを渡した。


(良かった。とりあえずピンチ脱出。でも一体誰がバックに入れたの?)

ホワイトチョコレートを美味しそうに頬張る翼と勝を後目に、陽子はバれないか心配で仕方なかった。




 そして後日その真相を知ることになる。

翼と陽子が出逢った朝、秩父を訪れた友人が気を利かせてくれたからだった。

陽子は本当は授業の途中で抜け出していたのだった。
午前中だけなのは本当だった。
でももう少し残っていたのだ。
でも陽子は嬉しく堪らないようだった。
だから、友情の証として持って来ていたチョコレートをとっさにバックに入れたのだった。


(ありがとう。本当にありがとう。何があっても、やはり私達は親友よ)

陽子は嬉しそうに微笑んだ。