コーヒー事件の真相も、日高家の抱えた人間関係も知らされないままに……

陽子はただ、やっと訪れた恋に身をおきながら懐かしい人達の中に居た。


「暫く」


「あら、久しぶり」

そんな声があちらこちらで飛び交う。

さながら其処はすぐさま同級会の席上のようになっていた。




 「陽子見たわよ」
突然声が掛かった。

その方向を見ると、連んでいた高校時代のクラスメート達が手招きをしていた。


「アンタ大分浮かれていたわね」

陽子が仲間に加わった途端に、耳打ちされた。


(えっ、一体何!?)

陽子はドギマギしながら、頭の中を整理していた。


(きっと翼の事よね? ああ、なんて話せばいいの? 年下だけどイケメンだから惚れちゃった。なんて……言えないよー)


そう、翼は本当にイケメンだった。
アイドルみたいで可愛い。

初めてのデートの時、そう思った。
だから、今まで翼に恋人が居なかったなんて信じられなかったのだ。

だから、付き合ってくれて本当に嬉しかったのだ。




 素直に好きだと言った。
やっと訪れた恋に身を焼きながら。
でも本当は心配だった。


振られたらどうしよう。
そればかり考えていた。


でも言って良かったと今では言える。
あんな可愛い恋人は、絶対何処にもいない。


陽子はドキドキしながら、クラスメートとの会話の中に溶け込もうとしていた。


(ねえ翼……なんて言ったらいい? 私の方から好きになっちゃったって素直に白状しようかな?)

そんなことを思いつつクラスメートを見たら、テグスね引いて待っているように感じた。


(ねえ翼……根掘り葉掘り聞かれそうで怖いよ)


「ねえ、みんな聞いて。陽子ったら素敵な彼氏を手に入れたのよ」


「えっーマジ!? 私てっきり男性に対して潔癖症かと思ってたのに」


「嘘っー!? 信じらんないよー。だって、恋愛談義にも乗れなかったじゃない」


そうなのだ。
陽子は奥手で、初恋すら未体験だったのだ。


「ねえねぇどんな人?」


「言っちゃおうかな?」

陽子を見ながら、目配せをするクラスメート。


陽子は恥ずかしそうに俯いた。


「日高っていう、テニススクールがあるでしょう? 彼処の息子よ」


「えっー、彼処は資産家って噂よ。陽子も玉の輿に乗ったか? やったじゃん」