そんな時に勝から持ち掛けられたら作戦。

翼を喜ばせようと、その話に乗った陽子。

でも、看護士に見つかったら大変な騒ぎになる。

そう思い……
今があるのだ。


陽子は薄ら寒いシャワールームで、ただ消灯時間だけを待つしかなかったのだ。


でもその前に、この仕組まれた事件は起ころうとしていた。




 翼は付き添いの場合は何時もシャワーを浴びていた。

それを陽子はまるっきり知らなかったのだ。


実は……
それこそが勝の仕掛けたサプライズだった。


勝はドキドキしながら、翼の帰りを待っていた。




 翼は勝の食事を世話をやいた後、入院患者の内比較的体の動かせる人用の食堂で食事をしていた。

売店で買うオニギリやパンだった。
でも今日はクリスマスイブなので、勝のためにこっそりケーキも用意していた。

一般的なテーブルセットでの食事。
それはリハビリにも通じるようで、皆生き生きとしていた。

翼に恋人が出来たことは周知のようで、偶にはからかわれたりした。
でもそれが嬉しくて堪らない翼だった。




 病室に入り、ケーキを冷蔵庫にしまう。

翼はその後上着を脱いでハンガーに掛けた。

そして一枚一枚洋服を脱いでいったのだった。


薄目を開けて勝が見ているとも知らず、翼は奥のドアに手を掛けた。


その時を待っていたかのように、勝は微笑んだ。
でも翼は気付いていなかった。




 ――ガチャ!

その音に気付いて陽子は焦り、慌ててトイレに逃げ込んだ。

その時、シャワールームの扉が開き翼が入って来た。


(ヒャー!! 危なかった)

陽子はドキマギしていた。


「ウッ!!」
翼は翼で、驚いて思わず息を止めた。


(う、ヤバい!)

翼は目の前を横切った陽子の影を、幽霊か何かだと思って震え上がった。


(話には聞いていたけど、まさか、まさか……)

身を屈めて縮こまった翼。

それでも勇気を出して、恐る恐る影の消えた方向を目で追った。


トイレのドアに僅かな隙間がある。
其処から翼を見ている眼。


(うわー!! やっぱり誰か居る!)


翼は震えていた。


でも翼の寒い原因は、その幽霊ではなかった。
翼は上半身裸で入って来たのだった。


「ハー、クション! ハークション!」

とうとう翼はくしゃみを連発した。