毎日毎日香は孝を探し続けた。
半ば半狂乱。
それは香自身が一番解っていた。


何故一度しか遭っていない人がこんなにも気になるのだろうか?

香はその答えを知りたくて来る日も来る日も待った。

人見知りで恥ずかしがり屋の自分が、真っ直ぐに見つめられる相手が乗っている電車を。

そしてそれは、自分だけを見つめている人がいると言う悦楽に繋がっていく。


そして一週間後。
二人は互いの視線を絡ませあった。

一週間に一度の逢瀬。
言葉を交わす訳でもない、二人だけの時間。


やっと見つけ出し時の安堵感。
再び凝視される喜び。
熱い熱い凝視は、自分への愛だと香は受け止めた。
香の心の奥に刻まれる。

永い永い一週間が地獄となり、より深い愛を育む揺りかごとなった。


それはもう後戻りの出来ない激しい恋路の始まりだった。

孝も、この可愛い香を大好きになった。
でも、孝は勘違いをしていた。
香を後輩の薫だと思い込んでいたのだった。




 薫と孝は高校時代の一時期交際をしていた。


電車内でのハプニングが元で二人は知り合っていたのだった。

孝の持っていたテニスラケットが薫のお尻に当たり、痴漢と間違えられた。
それが始まりだった。薫に睨み付けられた孝。
全く身に覚えがないから言いがかりだと思った。

でも必死に言い訳をした。
傍にいた同級生に勘違いされたくなかったのだ。


最初は汚い物でも見ているような態度だった薫。

でも孝の手が遠くにあったことを知る。

痴漢など出来るはずがないと、薫はやっと納得した。

て、ゆうか……
薫は表情を変えたのだ。
孝の甘いマスクに心がトキメク。


髪はスポーツ刈りだったので、余計に爽やかに見えた。
瞬きする度に揺れる、付け睫でも施してあるような瞼。

汚れを知らないような深い色をした瞳に釘付けになった。


薫は孝に恋をしてしまったのだった。


薫はその時、ラケットの入っていたスポーツバッグに付いていた高校のマークを見逃さなかった。


だから薫はその高校へ入学したのだった。

それは、薫にとっての初恋だったのだ。