殉愛・アンビバレンス【もう一つの二重人格三重唱】

 翼の秘密基地に陽子と摩耶が立っていた。

それぞれの胸には産まれて来た子供が抱かれいた。

陽子と摩耶は走ってくる電車を見ながら、人の痛みが分かる子供に育てようと誓い合っていた。


地面にしっかりと立って、根が張れる子供。


何時か二人で行った、コミネモミジのような子供。


陽子はこの子供達のために、太陽のようになりたいと思った。

大樹と言う言葉が一番合う翼のためにも、翼の心を翼自身に返そうとして遺体を埋めた翔のためにも。


憑依の果てに翼が見たものは……

家族の優しさだった。

勝・忍・純子の愛だった。

そして何よりも……
陽子の殉愛だった。
殉愛とは身命をかけて信じた愛に従うこと。

そう……
陽子はそれほどまでに翼を愛していたのだった。

翔だと知らずに一途に愛を捧げたのだった。


陽子と摩耶に抱かれた子供達は、異母兄弟になる。


でも二人の元ならきっと、大樹のような子供達に育って行くだろ。




 「摩耶さん。翼のお母さんの好きだった花は忍冬なんだって」


「あっ、それで……。遺体のあった近くで見ました。きっと慰霊のためだったのかな? 実は私も大好きなんです」


「私も好きよ。だから忍冬の花言葉のように支え合って暮らして行きましょうね」
陽子は囁いた。


薫を思って香が植えた忍冬は、直に甘い香を放つだろう。


四月から学業に復帰する摩耶と、本格的に保育士の道を目指す陽子。


床の上の正座にも、絵本の読み聞かせにも馴れた。
でも陽子は馴れないことがあった。
それは隣に翼が居ないこと……

陽子は未だに翼を愛していた。




 母のために翼になりきろうとした翔と、翔を自分だと勘違いした翼。

二人の精神はシンクロし、気付かないままに大人になった。


翼の愛した陽子と翔の愛した摩耶。
二人は何時までも翼の秘密基地で通り過ぎて行く列車を眺めていた。