「僕は、自分の産まれて来た意味をずっと探し続けていた。その意味が……。それは陽子と出逢うためだった。そして自分の子供を守るためだった」

翼は苦しいそうに、それでも精一杯強く言った。


「そうよ。私はそんな翼を愛するために産まれて来たの。翼は私のことを太陽だと言ったけど、私には翼が太陽だった。だからこれからも、私を照らし続けてよ」


「陽子が太陽の子だと言ったから、僕は……」

翼は自分の意識だけで翔の目を開かせ、陽子が見えるように首を動かした。


陽子の体と太陽が重なる。


「眩しいなー。お祖父ちゃんの家で見た陽子そのものだ。やっぱり太陽の子供だな……。陽子が何時か話してくれた吉三郎も、子供を残して……。どんなに無念だったか! 今更知るなんて……」

翼は静かに目を閉じた。


「僕は今翼だ。嬉しい! もう一度陽子を愛せて。陽子愛している!」

翼は最大限の力を振り絞って言った。




 ゆっくりと……
陽子を見つめるために、翼はもう一度最期の力をふり絞って目を開けた。
それが精一杯だった。
翔の体は既に息絶えていたのだ。


翼の本体である翔を刺した時にそのことは自覚していた。
それでも翼は陽子と胎児をを守りたかったのだ。


翼の体勢からではもう陽子の姿は確認出来ない。
それでも翼は、陽子をその目に……
その心に焼けつけたかったのだ。


陽子はハッとして、翼と目を合わせられ体勢をとった。




 本の少し前まで、翼は自信を無くしていた。

精神に異常を来していた。


時々自分が誰なのか判らなくなる。

暗闇の中で何時もさ迷っていたのだ。

翼の精神はボロボロになっていたのだった。


でもそれは、翼が翔だったからだ。
時々入れ代わる人格。
それが二重にも三重にも絡み合い、今やっと翼は陽子を愛した実感を取り戻したのだった。


そして今、陽子を通して胎児の鼓動を目の当たりに感じることが出来た。

翼はそれだけで満足していた。
翔を刺した時に、こうなることは解っていた。
それでも陽子を守りたい一心で体が反応していたのだ。
それは翼の陽子への殉愛だったのだ。


(僕は何を勘違いしていたのだろう。僕が翔だったなら、下着を一枚外すなんて出来ないはずなのに……あれはきっとハンカチかなんかだ。そうだよ、親父は陽子に触れてはいなかったんだ。だから……、この子は……間違いなく僕の子だ)