『陽子ー!』
節子の声が響き、陽子は思わず目を向けた。
翔から目を離せばどうなるかぐらいは解っていた。
それでも陽子は嬉しかったのだ。


(お母さんが来てくれた)

其処に節子の姿はなかっが勇気付けられた。


(きっと翼にも届いているはずだ。今のお母さんの声で甦ってくれたら……)

陽子は淡い期待をして、そっと翔を見た。


(お願い翼、もう一度私の元にやって来て……)

翔の中に翼が居ると陽子は思っていた。
だからつい期待してしまったのだった。


チャイムが鳴った時、翼が帰って来たと思った。
でもそれが翔だと解って怖じ気付いた。


それでもあてにした。
自分が傍にいることが再び翼の心に火が灯る切っ掛けになるかも知れないと……


その声は翔の中に居る翼にも聞こえていた。
そっと目を開けて見る。


翼は其処に陽子の姿を捉えていた。




 その時。


「陽子ー! 逃げろー!」

翔が自分にナイフを向けて叫んでいる。
それを目の当たりにした陽子は思わずたじろいだ。


「翼! 翼なの!」
それでも嬉しくなって陽子は声をかけていた。


次の瞬間、翔は自分を刺していた。


「あっー、ダメー!!」
陽子には判っていた。その行為によって何が起きるのかが……


「翼!」
すぐに陽子は翔の元に走り、落ちていたナイフを遠くに投げて背中から翔の体を抱き締めた。


「翼ありがとう!」

思わずそう呟いた陽子。
解っていた。全て承知していた。
陽子を守ることを優先させた結果なのだ……


それでも陽子は又翼に戻ってくれたことが嬉しくてたまらなかった。
だから血が付着することも構わずに思いっきり翼にしがみついた。


「あっ!」
その瞬間、陽子は息を詰まらせた。心臓が止まっていたのだ。


「びっくりしないで。だから喋れるんだから。陽子が僕が太陽だと言ってくれたから、だから又自分を取り戻せたんだ」


「そうよ翼、あなたは私の太陽よ」

陽子は翔の体にお腹をくっ付けた。


「あっ! 赤ちゃんが動いた!」
陽子は慌てて、翼の頭を陽子のお腹に移動させた。


「翼! 聞こえる? 行かないでって言ってるの! 聞こえる?」

翼は頷いた。


「陽子。僕はやっと気付いた。長い間探していた答えが解ったんだ」

翼は陽子のお腹に耳をあてて、胎動を感じてようと目を閉じた。