六月の最終日曜日。

陽子は、結婚式に出席する姉夫婦から留守を預かっていた。

やはりジューンプライド。

梅雨の時期なのに、結婚式場は大繁盛のようだった。


結婚式と聞いて真っ先に思い出すのは、翔と摩耶だった。

二人はもう新婚旅行から戻っているはずだった。

だから陽子は密かに、翔を介しての翼を待っていた。

陽子は確かにあの日、翔の体の中に翼を感じた。


翔に憑依してまで自分に逢いに来てくれる、翼の愛を感じた。


逢えなくなった今だからこそ、陽子は翼に逢いたくて逢いたくて仕方なかったのだ。


夫婦になった後、初めてこの部屋に通された時翼が付けた柱の記。

そんなキズ一つ一つが思い出と重なる。


『僕のこと、ずっと見ててくれる?』

もう充分大人の翼。

それなのに……

陽子のために成長したいと翼は願った。

自分の目標を教師になることと定め、懸命に勉強をしていた翼。

思い出す度胸が熱くなり身を焦がす。

陽子は日々翼との思い出の中に生きていた。




 そんな時、堀内家の玄関のチャイムが鳴った。

陽子がモニターで確認すると、ドアの向こうに翔が立っていた。


(翼が帰って来た!)


陽子の動悸が激しくなる。
噂をすれば何とやら……


(あー! この日をどんなに待ちわびたことか!)

でも陽子は、逸る気持ち落ち着かせるために深呼吸をしてから画像に映る翔に向かった。


「翼なの? それとも翔さん?」

インターフォンごしに陽子が恐る恐る聞く。


翼であってほしかった!

翔の体でも良かった。
翼の魂で帰ってほしかったのだ。


優しかった翼。

きっと自分のために戻って来てくれる。

陽子はずっと、そう思いながら翼を待ち続けていたのだった。




 「俺、翔。ちょっと出られないか?」

でも……。
翔はそう言う。


「うん分かった。ちょっと待っててね」

陽子は少しがっかりしながら、バッグから鍵を出し外に出る。


「何処へ行くの?」
恐る恐る聞く陽子。


「中川」
そっけなく翔は言った。


「私の実家?」

翔が頷く。

陽子は鍵を閉めながら、実家に行く旨のメモを郵便受けに入れた。