既に翔に憑依していた翼は、翔の本当の人格を奪い取ってしまったのだった。
翔は翼を演じていた。
だから簡単に翼になってしまったのだった。


確かに翼は倒れた。
でも本当はまだ生きていたのだ。

それを死んだと勘違いしただけだったのだ。


そして翔を愛するある人物によってその事実は封印されたのだった。
業務用冷凍庫の中で臭いの漏れない工夫をされた後で。
まだ息のあった翼はこのようにして死を迎えされたのだった。




 そしてその冷凍庫にあった遺体は新婚旅行から帰って来た翔によって庭に埋められたのだった。


翼の人格を翼自身に返すためだった。


摩耶を、摩耶だけを愛するために……


クリスマスイブの翌日。
翔が目覚めた時、勝の付き添いのベッドで陽子と眠っていた。


『じっちゃん又来るよ』
そう言ったのは翔だったのだ。


翼の別人格ではなかったのだ。
翼こそが、翔の別人格だったのだ。




 翔はその計画を実施するべく行動に移そうとしていたのだった。


翼が埋められた庭。
其処には、母も殺されて埋められていた。


翼の魂がその遺体に戻って行く。

そして……
死して尚、翼は母を求めて必死に指を伸ばした


「母さんごめん。僕は此処で死ぬわけにはいかない。陽子を、陽子を守りたいんだ」

翼は恋しい母に体を預けて、再び翔の体に旅立って行ったのだった。




 翼の魂は翔の体の中で、翔を自分だと思い込んでいたのだった。
母親に愛された記憶の無い翼。
その思いを抱えたままで。
満たされない冷え切った心のままで。


でもその心は、陽子の愛によって救われる。


天照大神の生まれ変わりのような、壮大な陽子の愛の炎によって。


陽子は翼の太陽だった。


そしてその翼も、陽子を照らす太陽になっていったのだった。