日高家の居間に翔と摩耶がいた。


「ここがお父様とお母様が亡くなられた部屋? なんだか薄気味悪いわね」
摩耶は翔の背中にへばりついて、うっすら血の付いた床を見ていた。


「此処で殺されたの?」
翔は頷いた。

でも摩耶は翔の背中てまだ震えていた。


「ああそうらしい。血液の量、顔に付い跡。警察はここが殺害現場だとした」


「顔に跡? それで死亡推定時間が出せるの?」
摩耶が言った。


「ああそうだって。警察が幾ら検証しても、翼のアリバイは崩せないって言ってた」


「何かのドラマで見たけれど、冷暖房器具で少しだったらごまかせるって」


「そこは抜かりなく調べたらしいよ。使用形跡はなかったって」


「そうか。でも私達のアリバイも成立して良かったわね」


「うん。摩耶には感謝してる」


「本当に? でも私ぐっすり眠っていたから」

そう言いながら摩耶は翔のスーツの裾を掴んだ。

摩耶は怖かったのだ。
もしかしたら、自分が眠っている間に……
なんて考えていたから。




 「怖いからもう出ようよ」
摩耶はもう一度翔の背中にしがみついた。


「恐がりだな。よし!」
翔は摩耶を押し倒した。


「ギャー!」
摩耶は悲鳴を上げた。


「やめて怖い!」
びくつく摩耶の声を無視して、翔は血潮の上に摩耶を置いた。


摩耶の顔から血の気が引いた。


「ここで!? イヤ! 翔の両親が見てる!」


それでも翔は摩耶の言葉を無視し、体を床に押さえ続けた。




 両親の死んでいった部屋。

その二人の血潮の上で摩耶を求める翔。

抵抗すればするほど、翔の力が強くなる。

何かに取り憑かれたように摩耶を求める翔。

摩耶は翔の二面性を感じて怖くなった。

愛に狂った翔は夜叉になった。

仕方なく摩耶は負けた振りをして翔を受け入れた。

恐怖がやがて快感になる摩耶。

摩耶もまた得体の知れない何かに取り憑かれたようだった。

二人もまた激しく愛し合っていた。

摩耶は翔の愛撫に酔いながら、この家で暮らして行くことを決めていた。