「俺への祓いせか!」
翔はナイフを構えた。


「殺す気か。一人じゃ何にも出来ないくせに!」


「何っ!?」
翔はいきり立った。


「そうだろう。警察で聞かれて分かったことがある。親父は睡眠薬強姦事件の斉、証拠隠滅のために何事も無かったように細工をすると。でもあの日陽子は下着が一枚外されていた。後で家に入ったお前がしたんだろう?」
翼はテーブルを叩いた。


「ああそうだよ。お前に気付いてもらわなきゃ意味がない」


「僕に親父を殺させるためにか!?」

翔は頷いた。

でも翔にはその記憶は曖昧だった。


陽子の下着一枚を外したのが自分か否かを。

でも翼を挑発したくて、そう言ったのだった。




 「その先は容易に想像出来る。お前きっと逆上して、親父の足跡を消そうと陽子さんの体を洗った。その後……」


「止めろーー!」
翼が激しくテーブルを叩いた。


「図星か!?」
翔は勝ち誇ったようき笑った。


「どうせ、自分の愛で清めるとかなんとか言いながらやったんだろ? よくやれるな、あの親父の後で」


その言葉は翼の心に深く突き刺さった。


翼は逆上して、翔からナイフを奪い身構えた。


「お前が悪いんだ」

逃げながら翔が言う。


「お袋まで殺すからだ!」


翔は泣いていた。




 「俺は知ってるんだ。お前が本当はお袋が大好きだったって。だから勉強していたってことも。それなのにどうして殺したんだ」

翔は逃げ切れないと悟ったのか、両手を広げて翼を待った。


「いや違う。お前は本当は母さんまで殺して欲しかった筈だ。そうでなきゃ、彼処にナイフは置かない」


それは……
翼が二親殺しを認めた発言だった。


翼はサバイバルナイフを構えながら、徐々に翔との距離を縮めていった。


翔が母親の遺体を見た時、殺す手間が省けたと喜んだのは事実だった。

翼と翼の母である薫を憎む余り、翔を溺愛した香。


嬉しい反面憎んだ。
産まれて来ない方が良かった。そう思ったこともあった。


それでも母だった。

翔にとっては愛する母だったのだ。




 その日、翼は帰って来なかった。


陽子は翼が日高家に行った事実をまだ知らなかった。