その事件は、摩耶がにアリバイを証明した事によって、両親も知る事となった。

大反対され、別れることを余儀なくされた摩耶。

でもその時、摩耶は妊娠していたのだった。


両親が、日高家には莫大な財産があると知ったのはその直後だった。


両親は娘のためだと割り切って、摩耶を嫁がせることに決めた。




 結婚式は摩耶の希望で六月に挙げることとなった。

摩耶も激しく翔を愛していたたのだった。




 陽子は大分落ち着きを取り戻していた。

母の節子が陽子の体調を心配して様子を見に来てくれた。


「容疑が晴れて良かったね」
節子の声が優しく響く。

陽子は思わず節子の胸で泣いていた。


「怖かった。翼が連れて行かれそうで」
陽子は母の抱かれて、久しぶりに甘えた。


「陽子の甘えん坊」
節子は笑いながら陽子を受け止めていた。




 庭にシロツメクサが咲いていた。


「私は昔……ううん今でも四つ葉のクローバー探しの名人なのよね」
節子はそう言うと、すぐにそれを探し始めた。


「ほら、見つかった!」
節子は手招きをして、陽子を呼びつけた。


「あー、本当だ!」
陽子は嬉しそうに声を張り上げた。

陽子はその幸せの象徴を愛しそうに見つめていた。


恋知らずだった陽子が恋に墜ちて、激しい炎に身を置いた。
そして宿った生命。
不幸な偶然はあっても、この子は翼の子供に違い無い。
陽子はやっとそう思えるようになっていた。
愛すると言うこと。
それは、全ての運命をも背負うこと。

陽子は初夏の陽射しの下で母になる喜びを噛みしめていた。




 翼はその頃、日高家にいた。


「お前が殺ったのか?」
単刀直入に翔が聞く。


「違うよ。僕には確かなアリバイがある」


「陽子さんの実家で宴会か? 怪しいもんだ」

翔はサバイバルナイフをテーブルの上に置いた。

翼はそれを見て驚いた。
あのオルゴールの底に貼り付けられていたナイフと同型だった。


「驚いたか? 同じのを又買ったんだ。あのナイフを買ったことは誰にも内緒にしていたんだよ。それが殺害現場にあったと言うことは、犯人はお前だと言う証拠だよ。オルゴールの下のナイフを見たのはお前だけだから」


「そうだな。お前の部屋にあのナイフがあったのを知っているのは確かに僕だけだね」