「この写真見て」
そう言いながら翼は、薫と言われた写真を陽子に渡した。


「 叔父さんは薫姉さんだと言ったのに、裏には香とある」


「あっ本当だわ。でもお義兄さんが間違えるの仕方ないわ。ほらこの黒子、確かに薫お義母さんのよ。私この目で見たわ」


陽子は上目遣いで物思いにふけりながら話を続けた。


「あれは、おじ様が危篤状態になったとみんなが集まっていた日。お義母様が殆どお化粧なしで現れて……その時に髪が揺れて」


陽子の言葉で翼は、勝が薫を香と呼んだことを思い出した。


(あっ、そうか!! お祖父ちゃんは黒子を見たから香と言ったんだ! そうだ、母さんは何時も耳を隠していた。香だとバレるからか? そう言えば母は何時もお化粧していた。あ、あの白いチューリップ。香さんが好きだって言ってた白いチューリップ。本当は母さんの好きな花だった……)




 「ねえ陽子。コーン何とかと言う化粧品知らない?」
翼はうすら覚えの化粧品の名前が思い出せなかった。

確かコーン何とかとか書かれて記憶だけだった。

勿論、それがどんな化粧品なのかなど知る由もなかったのだった。



「ああ、コンシーラー? シミやソバカス何かを隠す物よ。それが何か?」


(やっぱり……)
何故かそう思った。

翼はきっと元々知っていたのだ。
でも怖くては、聞けなかったのだ。
でもその時翼は、自分の背負わされた十字架の重さを知った。




 翼は泣いた。
声が枯れるほど泣いた。

翼が気付いてしまった真実。
それはあまりにも残酷過ぎた。
神が、翼に与えた宿命だったのだ。


翼は泣きながら、翔に言われた双子の真実を陽子に語り出した。


自分の本当の母親は薫で、香が薫になりすましていると翼は考えた。


「母さんは一体何処にるんだはろう? きっともう生きてはいない」
言ってから怖くなった。

一体誰が母を殺したのか?

父か?

母か?


その時初めて翼は両親に強い殺意を抱いた。


自分が産まれて十八年。

そっくりそのままが本当の母の行方不明歴のはず。
だとしたら父の所持している土地の何処かに埋められてはいるはずだった。


それが何処なのか翼に解るはずがない。
真実を知るために……。
翼は今やれることを遣るしかなかった。