年末の大掃除をしていると勝の大事にしていたアルバムが見つかった。

忍が懐かしがって開けてみる。


「子供の頃良く見ていたんだ」
幼い時に亡くなった母。
忍には母と遊んだ記憶がない。
母と逢える唯一の方法。
それがこのアルバムだったのだ。


「父に不満があった訳じゃない。でも良く開けて見ていたな」
溜め息を吐く忍。


「ねえ、一息つきましょうか?」
忍に純子が声を掛ける。


それならばと、陽子はコーヒーを入れて運んで来た。
コーヒー嫌いだった翼も徐々に陽子の味に慣れ、今では普通に飲めるようになっていた。




「懐かしいなあ!ほらこれが薫姉さん」
そう言いながら、忍は少しセピア化したカラー写真を翼に渡した。

その脇に二人の写真。


「これは?」
翼は双子の姉妹らしい写真を手にした。


「薫姉さんと香姉さん」




 「へー!初めて見たわ。ところでどっちが薫さん?」

純子が聞く。


「うーん、多分こっち」
そう言いながら、翼に渡した写真と同じ人物を指差した。


「ほらここの黒子。これが決め手だよ」
忍が得意そうに言った。


「薫姉さんの耳の付け根の所に黒子があるんだ」


翼は忍に渡された写真を見た。
確かに左の耳に大きな黒子があった。


翼は思い出していた。
それは母の癖だった。
引っ詰めインデアンスタイルの時も、前下がりボブの時も、母は耳たぶを気にしていた。

そして鏡の前でコンシーラーをつける。


翼はそっと写真を裏返してみた。
そこに消えかかった勝の手書き文字を見つけた。
鉛筆で香と書いてあった。




 暗い寝室で翼は一人、窓を見つめていた。
手元にはあの写真。


何も知らす部屋に入ってきた陽子。
翼を見て驚く。

幽霊でも見たかのように、上半身がキュッとなる。

恐る恐る確認後、やっと翼だと気付いた。


陽子がたまりかね部屋に電気をつける。


「どうしたの翼? おじ様の幽霊かと思ったよ」

陽子は翼を胸に抱くように首から手を回した。


翼の背中に陽子の温もりが伝わる。
翼は目を閉じ、優しい時間に身をおいた。


「実は陽子に隠し事をしていた」


翼は目をつむり大きなため息を吐いた。