家族から愛されなかった日々を記憶の底から消し去りたかった。
全てこれからの喜びとするために。
陽子との愛だけの日々にするために。

でも出来るはずがなかった。

そして思った。
翔に言われた厄病神として、これからも生きていかなければならない自分の運命を。




 鬼でもとり憑かれたかのように、翼は受験勉強に没頭した。

陽子はそんな日々に不安を抱きながらも、それがやっと勉強出来る場を与えられた喜びからだと思うようにした。


そんな中、勝の新盆がやってくる。

胡瓜の馬と茄子の牛。
それぞれに意味がある。

家族の元へ戻って来る時は馬に乗って早く、又黄泉に戻る時は牛に乗ってゆっくりと。

家族の傍で少しでも長く居てほしいととな願いがそれには込められているのだ。


鬼灯と回り灯籠。
お盆用品で埋め尽くされていく仏間。
まだ悲しみの癒えない家族にも時は待ってはくれなかった。
容赦なく冠婚葬祭の課題をぶつけてくる。




 回り灯籠を見つめていると病室の勝が蘇った。
ウエディングドレス姿に感嘆した同席者は、翼と陽子に想いを託して退室した。

それなのに、やっと得られた愛の時に二人は酔った。
勝の最期を看取れなかった悔しさがだ陽子の心を支配していた。



 あの日、初めて男性に肌を許した陽子。
その日は自らが選んだ初夜になった。
今まで翼を拒んでいた訳ではないのに……
これからもチャンスは沢山あるはずなのに……何故待てなかったのか?
何故求めてしまったのか?

陽子は未だに苦しみ続けていた。




 勝にゆかりの人達が次々と堀内家にやって来る。
明智寺で灯した提灯を家族四人で運ぶ。


堀内家の新盆の第一目は、静かに過ぎて行く。


迎え火を炊く。
勝が迷わず戻って来られるようにとの願いを込めて。


「親父寄り道しないで帰って来いよ」
忍が明智寺方面に向かって声を掛ける。


「あなたこんなに近いのにそれはおかしいわ」
純子が寄り添いながら忍の太ももを軽く叩く。

忍はその手を掴み堅く握り締めた。


「あなた痛いわ」

純子が甘い声を上げる。
でも忍は何も言わずに純子の手を離そうとしなかった。


「あなた!?」
純子が不思議がって忍を見つめる。
純子の視線の先で、忍は泣いていた。


忍はハッとした。
慌てて頬に流れる物を指で拭った。