会えた感動のあまりぼんやりと先輩のことを見ていると、紀村先輩が私の顔をひょこっと覗き込んできた。
「なんかボーッとしてるけど、気分でも悪い?」
「あっ、大丈夫です! 元気満々です!」
私は両手で拳を握り、胸の前でガッツポーズを作る。
「そう? ならいいけど。営業部に何か用事でもあった?」
「……あっ」
そうだ。私と先輩が会えるようにと佐山さんが協力してくれたとは言え、ここに来たメインの理由は仕事に必要な資料を渡すことだった。
先輩に会えたことが嬉しくて、つい忘れてしまっていた。
「あの、佐山さんから先輩にお届け物があったので、持ってきたんです。たぶん営業事務の人だと思うんですけど渡しておいたので、後で確認お願いします」
「佐山? あー、そういやさっき電話で言ってたな。っていうか何? あいつ、さきこにパシりさせてんの?」
「いえ、そんなんじゃなくて、企画の仕事がスムーズに進むように動くのが私の大事な仕事なので」
「ふぅん。そっか。届けてくれてありがとうな。助かったよ」
「いえ!」
ありがとうと言ってくれた先輩の優しい声と笑顔に、私の心臓がドキドキと速くなっていく。
特別なことを言われたわけでもないのに、先輩が言ってくれたというそれだけで、私にとって特別になる。
ほんの小さなことでも、私の心は先輩に向かって引き込まれていくばかりだ。
先輩に会えばこうやって胸の鼓動が速くなって、嬉しい気持ちでいっぱいになって。
先週から今に至るこの気持ちが、一瞬だけの気持ちじゃないんだと思い知らされる。

