「逃げるなよ」
「っ」
ふと笑みの消えた先輩の表情や低い声、口調に心臓が音をたてる。
真っ直ぐ見つめてくるその瞳は、私を捕らえて離さない。
この目からは逃げられないような気がして、私はふぅと小さく深呼吸をして口を開いた。
「……ごく最近、できました。気になる人」
私が暴露した瞬間、先輩は再びにやりと笑顔を見せた。
「へぇ。いいね~。じゃあ、今、一番楽しい時期なんじゃねぇの?」
「かもしれないです、ねっ」
「脈はありそ?」
「……まだ探り中です」
「ふぅん、そうなんだ」
──私の心を捕らえて離さない気になる人は、先輩なんです。
……なんて言う勇気はさすがに持てなかった。
でも、こうやって先輩といるだけで楽しくて、嬉しくて、幸せで……もっと先輩のことを知りたいと思うんだ。
もっと近付きたい。
無意識に出た言葉は告白に近い言葉だった。
「先輩のこと、もっといろいろ教えてください」
「何。俺のこと、そんなに知りたいの?」
「……はい。だって……大先輩のことはいろいろ知っておかないと!」
真っ直ぐと見てくる先輩の瞳に負けそうで、私は誤魔化すようにおどけるような言葉を言った。
「くくっ、なんだよそれっ。別に何もおもしろい話なんてないけどな。ごくごく普通の家に育って、普通に学生時代を過ごして就職して、今に至る。ってとこ?」
「すごく省略してません?」
「そ? まぁ、彼女にでもなれば、何でも教えてやるけど? ……あ。さきこ、俺の彼女になってみる?」
「!?」
か、「彼女になる?」!?
それ、どういうこと!?

