その時、気付いた。
私、先輩の明るい笑顔と優しい表情しか見たことがないんだ……。
ほんの1時間くらいしか話してないんだから、それが普通なんだろうけど……。
もし、先輩の表の顔があの笑顔だとしたら。
そんな表情をさせるのは、誰……?
先輩の心を動かすのは、誰……?
疑問が浮かんだ瞬間、ツキンと胸が痛んだ。
私はまだ、先輩の表面……ううん、表面どころか名前や部署、大体の年齢くらいの情報しか知らないんだ。
そんなの、何も知らないに等しい。
「──あれ? 佐々木さん?」
「っ!」
突然呼ばれた自分の名前にビクッと私の身体が跳ねる。
先輩が呆然としていた私に気付いて、声をかけてきたのだ。
私に向かって近付いてくる先輩の顔には、私が知っている明るい笑みが浮かんでいた。
……きっと先輩の表の顔が。
その変わり身の早さに、私の心臓がまた小さく痛んだ。

