「……俺と一緒に来る?」
「…………えっ!?」
目を丸くした私を、先輩はいつになく真面目な顔で見ていて。
「……明希」
「っ!」
突然、先輩が私の名前を呼んだ。
付き合うようになってからも殆ど呼ばれないその名前に、私はもちろん驚いたんだけど。
……先輩はこれからもっと驚くようなことを言い放つのだ。
「しよっか」
「……へ? する……?」
「……しよ? ……結婚。」
「…………は?」
「だから。俺と結婚しよ。」
「…………へ?」
今、何て言いました……?
けっ、けっ、結婚……って聞こえたんですけど……。
そ、空耳……?
想像もしていなかった単語に私はぽかんと口を開けてしまっていると、先輩が吹き出した。
「ぶっ、何そのバカっ面。ていうか、何度も言わせんな」
「……え? えっ!? いや、あの、え?」
「あ、俺と結婚するのは嫌ってこと?」
「え? いやっ、えっ!?」
や、やっぱり「結婚」ってしっかり言ってるんだけどっ!? どういうこと!? ほ、本当に!?
「あー嫌なんだ。そっか。ふぅん」
「いやっ、ちっ、違くてっ」
「ん? じゃあ何?」
「えっ、な、何って」
それは、こっちが聞きたいんですけどっ!? でも、言葉になってくれない……!
「さきこは遠距離がいいんだろ?」
「違……っ、違うんです……っ」
「……」
「ほ、本気で言ってるんですか……? け、結婚って……先輩と……わ、私、ですか?」
先輩の表情を窺うように尋ねると、先輩がむっとした顔をした。
「……さきこ以外に誰がいるんだよ。つーか、冗談でこんなこと言うかよ。本気に決まってる」
「!」
真っ直ぐと私を見据えてくる先輩は冗談なんて言ってる表情じゃなかった。
本当に、本気なんだ……。
「せ、先輩……」
「うん」
「……本当にいいんですか?」
「何が?」
「だって……、私なのに」
先輩とこうやって二人で居れることさえ、いまだに夢みたいに幸せなのに。
「……明希だから、だろ?」
「っ、こんな私ですよ……っ?」
「くっ、何だよそれ? そんな明希が、俺はいいっつってんだけど?」
「~~っ」
「まだわかってねぇの?」
「へ……?」
「俺がどれだけ……」
「っ!」
「明希のこと、愛してるのかって」
「ん……っ」
ちゅっと触れるだけのキス。
なのに、すごくあたたかくて。
「……ずっと、ずっと。俺の傍にいろよ? 俺はもう明希がいない未来なんて、考えられないから」
「先輩……っ」
「前に言ったよな? 明希がいて、俺の世界がカラフルになるんだから。もうモノクロの世界になんて、興味はない」
先輩に浮かんだ笑顔で私の世界が色とりどりのカラフルな世界に変わる。
「私もです……!」
「ん。知ってる」
「……で、でも」
「え?」
「……ま、マンガは持って行ってもいいですか?」
「! ぶはっ!」
私が部屋の壁際にあるマンガを指差すと、先輩は吹き出すように笑い出した。そして。
「……いいけど、俺のこと放置してマンガに夢中になるのは禁止だから。」
と言い放ち、甘いキスを落としてきた。

