「さきこ」
「!」
考え込んでしまっている間に、先輩がいつの間にか私のすぐ後ろにいて、私はびくりと肩を震わせてしまう。
先輩の手が私の腕をがしっと掴み、くいっと引かれ先輩の方を向くように体の向きを変えられた。
ちょっと抵抗しようと掴まれている腕に力を入れてみたけど、力強く掴まれていて振り払おうにも振り払えそうになかった。
「もう逃がさねぇからな。言い逃げも許さない」
「……っ」
先輩の低い声と、真っ直ぐと向けられる先輩の視線。
まるで私の体に透明な糸が絡まってしまっているんじゃないかと錯覚するくらい、私は先輩の視線に囚われていた。
じっと見据えてくる先輩を無意識に泣きそうになりながら見つめていると、先輩の表情がふっと緩んだ。
「……くくっ」
「! せ、先輩……、あの」
「はーあ。ほんと、さきこに振り回されっぱなしだな。俺、バカみたいに必死すぎる。……ごめん。驚かせたよな」
つい一瞬前までの緊張感のある空気を崩すように先輩はくすくすと笑い出し、先輩の笑顔に私も同じように少しだけ体の緊張が解けた。
「先輩、私、先輩を振り回すようなこと、した覚えないんですけど……」
「自覚ねぇの? 言ってたろ。“俺を好きな気持ちを忘れるまでは俺から離れる”、だっけ? この言葉に今も絶賛振り回されてるんだけど」
「っ!?」
何でそんなにはっきりと覚えてるの!?
きっとそんなに細かくは覚えてないだろうと、適当に誤魔化そうと思ってたのに……。
っていうか、振り回されてるって、迷惑だってことだよね……?
やっぱり私の気持ちは先輩に迷惑をかけるだけなんだよね……。
それならいっそのこと、バッサリふってもらって、先輩から離れた方がいい。

