『でもね、あなた。』

佳子は少し悲しそうな顔をした。

『心が他の人にあるってことは
相手からすると淋しいことよ。』

『…どういう意味だ?』

酔ってる勢いもあってか、佳子は話し出した。

『私とあなたは見合い結婚だったから
恋愛期間がないのは仕方ないと思ってるの。
私と結婚したということは
それなりにあなたは私を大事だと思ってくれたと思ってる。
でもね、なんていうか…
あなたの心の中には誰かがずっといる気がして。
そりゃ、一人くらい忘れられない人っているだろうけど…
そうじゃないなにかがある気がして。』

佳子の女の勘だろうか。

『それが木崎さんなんじゃないかとずっと思っていたの。
木崎さんはうちにも連絡くれたりするから
なんかやましいことがあったら
きっとうちに連絡なんてしないと思うんだけど
あなたの木崎さんに対する態度は
他の教え子さんと違うから。』

結婚して10年以上経っているが
佳子はそんな思いでずっといたのだろうか。

『ん~…
木崎に関しては確かに特別な教え子かもしれない。
あいつはなんていうか昔から危なっかしくてな。
俺も若い頃の教え子だったけど
娘がいたらこんな風なのかな、とその頃から思ってて。
自分で娘ができたらやっぱりそれに近い感情なんだよ。』

半分本音だった。

『あいつを女として見たことはないな。』

そういって佳子を見る。

『んー、よくわかんないけど…』

『俺だってわかんないよ。
あいつは特別な教え子ではあるけど
変な意味の特別ではないよ』

『まぁそれならいいけどね。
なんかずっと思ってたんだ。
木崎さんと付き合ってたりしたのかなぁって。』
『それは絶対ないない』

あいつと俺の関係はきっと共謀者、というのがしっくりくるのかもしれない。