*学校名は実在しないまたは実在のそれとは一切関係なく、作者が響きで適当に考えたものです。また、その他氏名、団体名、施設名、すべては架空のものです。
プロローグ
大秀館大学。その名を知らない者はいない、なんて大それた学校ではない。
その名をアイデンティティにできないほど、恥じる学校でもない。
入学手続きを済ませ、一息ついた頃、もう、何度この大学名を口にしたのかわからなくなっていた。
そして、この名前も、何度つぶやいたかわからない。
「冴木 快」
彼が推薦で大秀館に入学を決めたと聞いたとき、急遽合格していた都内の大学を蹴り、一般入試で大秀館の受験を決めた。
3度目の進路相談で、冴木快が大秀館を受験するということは耳にしていた。
しかし双子の兄、矢崎奏の存在がそれを邪魔をしていた。
「大秀館受けるよ。小論文?それで入れるらしい。岸美から受けるやつも結構多いんだってー」
「あんたそのまま岸美大に進学しないの?」
「しないよ。未来はどこ受けるのかな?あいつも大秀館受ければいいのにね」
人懐っこい笑顔を母に向けている兄の姿を見て、大秀館大学のパンフレットをそっと鞄に押し込んだ。
まるで飼い主に甘える子犬のように、尻尾を振って、愛想を振りまいて、周囲を取り込む奏独自の世界。
それに、巻き込まれることはごめんだった。
「ただいま」
いつでも、矢崎奏の双子の妹として、兄を取り巻く世界に巻き込まれた。