「正直、俺にもはっきりとした理由はわからない…。だけど、アイツさ、今のマンションを出たいって…」

あのマンションを!?なぜ?


「龍太はこんな生活、もう1年以上続けてる…」


「1年…。沖本君は…最初から知ってたの?」

「いや、知ったのは半年ぐらい前かな。偶然、ここで友達がバイトをしてたんだ。それで…」

ここは龍太や私達が住んでる街から電車で一時間近く離れている。

わざわざこんな遠くでバイトをしているなんて…。

「…どうして、私に教えてくれたの?」

龍太はきっと誰にも知られたくないんじゃないだろうか。

「…言っただろ?琴葉ちゃんは特別だって。龍太にとっても――…俺にとってもね…」

「え?なに?」

――…最後の言葉は声が小さすぎて聞き取れなかった。

「…いや、なんでもない…」

彼は私から視線を逸らすと、特になにもない道路をひたすら見ている。

“特別”

また…

「…沖本君…私が特別って…前にも言ったよね」

「――…うん」