自然と歩く速度がゆっくりとなってしまう。

もう帰りたい―――…。



「琴葉、もう少しだから」

疲れていると思っているのか、繋がっている手に力を入れる。


「…龍太…いったいどこに行くの?」

もう、帰りたいよ。その言葉をグッと呑み込む。

「ん、もうすぐ見えるはずなんだ」


そう言ってさらに足を早めて行く。


「お!あったあった」

「―――え!?」



少し古いけれど、わりと大きな日本家屋。


埃を被って少々黒ずんだ表札に書かれた文字。


「……」


【竹内】 【木下】


「何年ぶりかな、ここに来るのは」

「……」


「少しは…覚えてる?」

優しく微笑みながらそう聞かれた。


「…ごめん――…忘れてた…」

「……」


この街は悲しい思い出の街なんかじゃない。



ここは

私達が初めて

出会った―――街だね。