「……―――押せない…」

あと一つ、最後の番号が押せず、結局名刺と携帯を鞄にしまいファミレスをあとにした。

もうすっかり暗くなっていてかなり肌寒い。

背中を少し丸めながら駅までの道のりを足早に歩いた。


駅に着いたところでマナーモードにしていた携帯がポケットの中で震えているのに気づく。


≪琴葉★今なにしてる?
俺、今から集中講義!なかなか会えないな~
琴葉に会いたいよ 航平≫


…航平―――ごめん…今は返信できないよ…

携帯と一緒に掴んでしまった名刺を見て、航平からのメールを閉じる。



名刺の名前―――

JINプロダクション

代表取締役 作本 仁



一体、この人と龍太の関係って…

麗美さんはどうしてこの名刺を持っていたの?

どうして私にそれを渡すの?



「……」

さっきポケットに入れたばかりの携帯を再び掴む。

そしてある番号を押す。

「――…もしもし。私、琴葉。うん…ごめん、急なんだけど…明日会える?
うん…ありがと。じゃあ明日…帰りにT駅で待ってるね」



どうしたらいいのか…誰かに聞いてほしかった。

教えてほしかった――