「あ、あの…どうして私にこれを…?」

――…彼女はフゥと小さく溜め息を吐いてからもう一度座り直す。

「――…どうして私じゃないのかしら」

ポツリと呟く。

「え?」

首を傾げる私を目を細めて睨む。

「あ、あの…」

なにがなんだかわからない私は戸惑うばかり。

彼女は少し伏し目がちに俯くとなにも入っていないカップをくるくると手で弄ぶ。

そしてゆっくりと顔をあげるとその瞳が微かに揺れているのに気づく。


「…認めたくはないけどね、あなたなら…龍太を連れ戻せると思うの」

私はさっき受け取った名刺に再び目を通す。

「ここに…龍太はいるんですか?」

「――…そこにはいないと思うわ。
…ただ、そこに電話すれば…もしかしたら龍太に、ううん必ずたどり着けるはず」



「――…じゃあ…工藤さんが電話したらいいじゃないですか」

そうよ、私はもう龍太を忘れるって決めたんだから。


「私でいいなら、とっくに電話して連れ戻してるわよ!」

「じゃあ、したらいいじゃないですか!
…どうして…私に言うの?
私は…もう…忘れたい――」

気がついたときには、ポロポロと涙が溢れていた。