「あっ…。あったよね。そんな事」

確か、あれは去年の春の話だわ。

「それで名前見てれば、忘れたくても忘れられないだろ?萌が覚えてる様に、向こうも覚えてるよ」

「私は今思い出したの。覚えてたんじゃないもん。それより雅貴。さっき、“お前”って呼んだよね?」

「えっ!?」

「いつもは名前で呼ぶのに、そんなに動揺してるの?」

覗き込む様に見上げると、雅貴は恥ずかしそうな顔をした。

「からかうなよ」

「からかうよ。10歳も上の雅貴に勝つなんて、そうそうないから」