小さなため息が出る。
潔く帰らないと…。
そうそう、明日の会議資料に、目を通しておかないといけなかったんだ。
会社の不祥事に関する信頼は、まだまだ回復出来ていないのだから。
仕事を、上の空なんかで出来ない。
だけど、腰が上がらない。
俯いたまま、情けなくうなだれる俺に、誰かが声をかけてきた。
「泣いてるの?」
それは、あまりにも突然過ぎて、一瞬頭が真っ白になってしまった。
俯いたまま、ちらりと見える濃いピンクのスーツケースと、白くて細い足に心臓が止まりそうになる。
「泣いてるの?雅貴」
顔を上げると、そこには心配そうに覗き込む萌の顔があった。
「萌!?」
思わず立ち上がった俺は、呆然と萌を見つめた。
「良かったぁ。雅貴が帰ったんじゃないかって、ドキドキしてたの」
「な、何でここに…?」
あまりの動揺に、俺は的外れな質問をしていたのだった。

