ガラスの靴をもう一度



フラれたからって、泣くなよ。

いい大人だろ?

いや、オッサンか。

そういえば子供の頃、オヤジに言われた事があったな。

“泣きたくても、歯を食いしばって堪えろ”

と。

今の俺を見たら、どれほど叱るか。

だけど、大切な人を失う辛さは、オヤジにだって理解出来るだろ?

俺は、何より大事な萌を失ったんだ。

“雅にぃ!”

そう俺を呼んでいた萌が、心の中に蘇る。

いつだって満面の笑顔で、俺に飛びつくように駆け寄ってきてくれた。

あの笑顔は、もう俺には向けられない。

そう思うと、涙はとめどなく溢れてきて、嗚咽を堪えるだけでいっぱいだった…。

「萌…」

さようならとは、まだ言えない。

情けないくらい、萌が全てだったから。