ゆっくりとデスクから立ち上がると、私の側へ来た。
「聞いたよ。萌、仕事を辞めるんだな」
「うん…」
「川上と、ニューヨークへ行く為か?」
「…うん」
笑顔が作れない私は、伏し目がちに頷くだけだ。
あの店で聞いた事を話せば、全てが誤解だと分かる。
だけど、今さら川上くんを裏切れる?
あんなに想ってくれる人を、もうこれ以上傷つけられない。
「そっか…。俺も、もうすぐニューヨークだ。あっちで、また会えるかもな」
「崇史さんも行くの?」
「ああ、あいつもだよ」
じゃあ、原田さんも動揺してるだろうな…。
「どれくらい行く事になるの?」
「そうだな。数年は行ってると思う。ようやくリコール隠しじゃないってのを理解してもらえただけで、信頼回復が完璧なわけじゃないから」

