ゆっくりと歩きながら、川上くんが連れて行ってくれた場所は、海が見渡せる海岸沿いだった。
海を背に振り返ると、会社のビルが見える。
「実は学生の頃に、彼女とよく来た場所なんだ」
懐かしそうに、川上くんは夜の海を見つめている。
沖には観光船の光が見えた。
「彼女?川上くんの彼女って、どんな人だったんだろ」
彼女がいたって不思議じゃない。
むしろ、いない方が不思議だ。
だけど、いざ“彼女”という言葉を聞くと、動揺する自分もいた。
「同じ大学の同級生。しっかりした女の子で、でも温かい性格の子だったんだよ」
「そうなんだ…。川上くんが選ぶ女の子なら、きっと素敵な人なんだろうね」
すると、川上くんは苦笑いをしたのだった。
「萌ちゃんに元カノの話をするなんて、ちょっと無神経だったかな?」

