「あっ…、ごめん。ちょっと急用を思い出して…」

振り向くと、少し眠そうな顔で立っている雅貴がいた。

シャツのボタンを外し、スラックスはシワになっている。

どうやらゆうべ、私たちはここへ戻ってすぐに眠ったらしい。

「こんな早い時間からか?」

「うん。私、タクシーを拾うから心配しないで」

そう言うと、雅貴は大股で歩いてきて、下駄箱の上へ置いてある車の鍵を取った。

「送るよ。オヤジさんのとこへ帰るんだよな?急用なら、なおのこと早く帰りたいだろ?」

「でも…」

店や警察にも寄りたいのにな。

躊躇する私を無視して、雅貴も靴を履いている。

「いいよ、雅貴。アルコール、まだ抜けてないかもしれないし」

すると雅貴は私を数秒見つめた後、静かに鍵を置いたのだった。