雅貴がドアへ向かおうとすると、
「あっ、待ってください。肩に糸くずが…」
麻生さんがそっと、雅貴の肩に触れた。
「ああ、ありがとう」
小さく微笑んだ雅貴の目は優しい。
昔の恋人だものね。
まして、雅貴から別れたわけじゃないんなら、麻生さんを前にして心が揺れるのも理解は出来る。
だけど、それは思い出にしてよ。
懐かしく思うだけにして。
「それに、少しネクタイもズレています」
そう言って麻生さんは、雅貴のネクタイを直した。
それは悔しいくらい自然で、二人がただの恋人同士ではなかった事を、見せつけられた気がしたのだった。

