「はじめて目が合ったとき、心臓が止まるかと思ったわ」

そういうと、傍らにいるあなたは苦笑した。

「またその話か」

あたりは闇につつまれているのに、
森本さんの目が、私をい抜くのがわかる。
まっすぐに、ただひたすらまっすぐに、私だけを見つめている。

その視線に耐えられなくて、
「苦手だった」と斜め下を向いて、投げ捨てるようにつぶやいた。

衣ずれの音がして、
森本さんが私の頬に触れた。
ほんの少し湿り気を帯びた温かい右手だった。
思いがけず、びくっと肩が震えてしまった私を、森本さんが空気を震わせてかすかに笑った。

「なんで笑ってるの」

「いや、いつになく素直だと思って。可愛い」

「嘘つき」

「嘘じゃない」

「見えないからって、からかうのやめて」

「見えてるよ。俺、夜目きくし」

「…え…?」

あわてて胸元にあった毛布をひきあげる。

確かに、暗闇の中で月光に照らされて、てらてらと光る2つの眼球は、狙った獲物を逃さない肉食獣のそれだった。

「今は?」

「え?」

にじりよってくるその2つの目から、後ずさりをする。
壁際までおいつめられて、逃げ場がない。

「苦手?」

「すこし」

顔を横にそむけた私だったけど、今度は両手で頬を挟まれ、
その後、待っていたのはキスの嵐だった。