『ねえ、それ』
「は?」
『は?って、は?』
え、今の聞き返される?
これ私悪くないよね?
主語がない夏が悪いんだよね?
絶対私は悪くない。なんてひとりで
納得しても、相手は夏だ。
『だから、それだって』
今度は“それ”を指差しながらまた主語の
ない言葉を発する。
なんでちょっと怒ってるの、腹が立つのは
こっちなのに。
しかし、これ以上言い合いを続けても
夏相手には意味がないと判断して、
大人しく指先を辿って“それ”を見る。
「……嗚呼、カメラのことか」
夏の言う“それ”とはカメラのことでした。
初めから名前を言え。名前を。
「で?カメラがなに」
もうこの人はカメラという言葉すら
出てこない可哀想な人なんだ、と
思うことにして目の前の可哀想な彼に
言葉の続きを促す。
『それでさ、俺のこと撮ってよ』
少し小首を傾げて覗き込むように見てきた夏を可愛い、なんて思ってみたり。

