「っ、」
声につられるように勢いよく
ばっと後ろを振り向くと。
『いい写真撮れた?南波さん』
こ、の人は…。
教室のドアにもたれかかるように立つ彼は
あのブラウンの猫っ毛を揺らしながら
クスクスと笑っていた。
その笑みに胸がどきりと高鳴る。
「あ、なた…は」
持っていたカメラをぎゅっと握りしめた。
『あれ?もしかして聞いてなかった?』
「な…にを」
『自己紹介』
そう言って意地悪く笑ったその顔が
彼にはよく似合っていて。
嗚呼、この人は酷くキケンだ。
なんて直感で思った。
その時は何気なくそう思っていたけれど
私の直感は当たっていたのだと、後で
痛いほど思い知ることになるとは…。
あの頃の私は思いもしなかっただろう。
「聞いて…ない」
『えー、酷いなー』
「…、思ってないくせに。作り笑顔」
そう言うとさっきとはまた違う笑みを
口の端に浮かばせる。
『バレた』
なんて、なんてめんどくさそうな男。

