『ひとつ聞いてもいい?』
「なに…」
私の素っ気ない反応に苦笑いを返しながら夏はそのまま言葉を続けた。
『どうして入ろうと思ったの?』
「写真部に?」
『うん』
やっぱり気になっちゃうか。そこ。
別に言いたくないわけではないけど、
言っても夏には関係のないことだから。
それに、彼の反応は目に見えて
わかっていた。
「会いたい人がいたから」
なんて。こんなこと言ってもどうせ、
ふーんとかへーなんて気の抜けた返事が
返ってくるに違いない。…そう思って
いたのに。
『…会いたい人って男?』
「うん?」
あれ?考えてた反応と…
『ねえ、男?』
「え……あ、うん」
『………』
「………」
無言が怖い!
私を見つめたまま何も言わなくなった夏。見つめられたままの私は為す術もなく
ただただその視線に耐えた。
『…今から行くの?部活』
「………うん」
『あっそう』
何この態度。ふい、と顔を横に逸らして
拗ねたような態度をとる夏に首を傾げる。
「……なんで拗ねてんの?」
『は?拗ねてないんですけど』
ああ、はい。そうですか。
「…まあ、いいや。じゃあね、夏」
席を立ち鞄を掴んで歩きだそうと
一歩足を前に出した…——その時。
「っ…」
パシッと乾いた音と共に身体が後ろに
引っ張られてバランスを崩しそうになる。
「っ、夏!いきなり…!」
『俺も行く』
「へ……?」
『俺も写真部に行く』
掴まれた左手からゆっくりと目線を上げて見えた夏の顔があまりにも真剣で、綺麗
だったから。
「(あ、撮りたいな…)」
なんて思ったことを、今でも覚えている。
————その日から、夏は私についてくるようになった。

