散らばった写真全てに映っていたのは
「藤乃先輩…」
私がその名前を呼んだ瞬間に、お腹に
回っていた腕が解けて拘束されていた
身体が自由になる。
そのまま、ぺたん。と重力に従って
床に座り込む。
写真の中の彼女は、私の記憶の中に
刻まれている姿のままだった。
艶やかな黒髪。陶磁器のような白い肌。
人を惹きつけて離さないその力強い眸。
そんな彼女が心から笑う時は、
いつだって、彼が隣にいる時だった——。
「…どうしてアルバムに入れてないの?」
写真から眸は離さなかった。
『…忘れてただけだよ』
「嘘よ、そんなはずない」
『もういいだろ、この話は』
「よくない!」
『悠…っ!』
らしくない大声だった。莉央にしては
乱暴な声音に身体を強張らせる。
私の反応を見て我に返ったように息を
吐き出した彼にゆっくりと振り向く。
「だってこれ」
「藤乃先輩が好きだった本じゃない…」

