好きだ。



「これ、私的オススメを集めて見たんだけど…どうかな?」


「わぁ!ありがとうございます!」






パウダーにグロスに透明マスカラにチーク。






初めて手にするものばかりだ。







「よかったら使ってみる?」


「え!いいんですか!?」


「うん!お友達もよかったら!」


「わ!ありがとうございます!」






優しいなぁ…それに美人でスタイル抜群で…





はぁ…私もあんなだったら南に振り向いてもらえるのに。








椅子に座り、軽く化粧水で顔を拭いた後、お姉さんが順に化粧をしてくれる。






「…お人形さんみたい…」


「え?」


「あ、いや!すいません、綺麗な方だなぁって(笑)」


「ふふ(笑)ありがとう。

…好きな人、どんな人なんですか??」


「え?どんな人…うーん…


面白くて、意地悪だけど優しくて…なんか…


ヒーローみたいな人です」







そう、意地悪なくせに優しくて。






呼んだらいつでも来てくれる、ヒーローみたいだ。




「そうなんだぁ…いいなぁ!青春だなぁ…」


「そ、そうですかね!でも彼女いるんです」


「そうなの!?それは…寂しいね…」


「そうなんです。もう、諦めなきゃいけないのになって…」







付き合ってもう9年の彼女。




私がまだ小学生だった頃から一緒にいるんだなぁ…







「諦める必要、あるかなぁ?」







「…え?」



驚いた顔でお姉さんを見ると、お姉さんはニコッと笑った。




「人の気持ちは縛り付けられないもの。いつだって誰かに心が動いたりしてしまうものじゃない?」


「そ、そうなんですかね」


「うん。私にも彼氏がいるけど…もし好きな人がいるって言われたら…


うーーーんどうだろ、取られる自分も悪いのかなぁって。誰を好きになるとか、人は選べないからね…」



「と、取るなんてそんな…」



「じゃあ早く諦めたほうがいいよ。死ぬ気で奪いに行かなきゃ。じゃないと、自分が可哀想だよ」





お姉さんはニコッと笑うと、できた!と鏡を見せてくれた。










たった数分で世界が変わる。





たった数分で私は別人みたいになっていた。






「め、目が大きくなってる…肌も綺麗…」


「メイクって、恋してる女の子に自信をくれるの。だから、頑張ってね」









私は、そのお姉さんに魔法をかけてもらった。