親愛なる母へ




古い木製のベンチに腰を下ろす。

きしむ音を立てるのは、以前と変わっていない。

この場所で、亮は彼女と初めて会った。


『足……痛そう』


ベンチに座っていた亮の傍で、彼女はまるで独り言のようにそうつぶやいた。

肩より少し長い、ゆるくウェーブのかかった髪を持つ彼女のことを、亮はそれまでに何度か見かけたことがある。

いつも淡い色の服を着て、ごく控えめに化粧した彼女のことを、綺麗な人だと思って見ていた。

しかし亮が勘違いしていたのは、彼女が病院の関係者か、入院患者の見舞いか何か、とにかく病人ではないと思っていたことだ。