親愛なる母へ




「亮君」


亮を見て口元をほころばせるのは、亮よりもずいぶんと年上の女性だ。

備え付けの椅子を窓際に寄せているのはいつものことで、しかし今日は珍しく本を読んでいる。


「本読めるようになったんだ?調子良さそうだね」

「漫画だけどね。最近、ちょっとずつなら読めるようになってきたの」


そう言って見せてくるのは、古びた少女漫画のコミック本だ。

入院患者が自由に読めるようにと、ロビーに置かれている本の中の一つだという。

病状がひどく悪かった頃は、活字どころか漫画でさえも、読もうとすると気分が悪くなると言っていた。

彼女は重度のうつ病を患い、ずっと以前から、この精神病棟に入院している。