親愛なる母へ




未央子は顔を伏せて、手の甲で乱暴に頬をこする。

その手に、涙で落ちたマスカラの黒が移り、それを見た瞬間、恥ずかしさが込み上げてきた。

知らない人に、しかも同年代の男に、こんなみっともない姿を見られてしまうなんて。

何も言えずにうつむくしかできない未央子に、再び声が落ちる。


「もう暗いし、まだ夜は冷えるから、帰った方がいいよ」


その言葉を聞いて、とっさに腹部に手を当てた。

もし本当に妊娠をしていたとしたら、こんなに体を冷やしてしまうのは不味いに決まっている。