親愛なる母へ




その夜、未央子の携帯電話が鳴った。

昼間に電話をかけた兵藤夫人だ。

義姉に未央子の電話番号を伝えたということだった。


「お義姉さんは忙しい人だから、しばらく連絡を待ってみてくださいね。キャリアウーマンなのよ。それに、少し気まぐれなところもあって……」


夫人は皮肉っぽく笑う。

もし連絡がなかったら諦めて、とでも言うように。

それでも、これは大きな一歩だ。


「お伝えいただけただけで充分です。本当にありがとうございます」

「いいえ。お母さんのこと、何かわかるといいですね」


未央子は何度も礼を述べ、見えない相手に頭を下げた。

確実に母に近付いている。

未央子は胸の傷に触れて、母を思った。

胸を締め付ける痛みはまだ変わらないが、その痛みを、受け止めようと思い始めていた。