親愛なる母へ




長く息を吐く。

緊張していたため、携帯電話を握る手は汗ばんでいた。


「ちゃんと伝わったかな。今更だけど、あたしって超不審者だよね」


乾いた声で笑い、救いを求めるように亮を見る。

亮が頷いてくれるだけで、未央子は自分の行動に自信を持つことができた。


「未央子の誠意は伝わってると思う。こんな見かけなのに、礼儀正しいもんな」


くつくつと笑う亮に、未央子は頬を膨らませて抗議する。


「うるさいよ」


未央子は椅子の背にもたれ、窓の外を見た。

講義が終わったのか、隣の棟から人がどんどん吐き出されてくる。


「お母さんも……」


ぽつりと、未央子の口から言葉がこぼれる。


「この髪見たら、びっくりするかなぁ」


未央子の指が、自身の金色の髪をつまむ。

他人事のようにそう言う横顔が、亮には少し、淋しげに見えた。