親愛なる母へ




「確かに、主人には姉がいますけど。行方不明なんですか、お母さん」


必死で隠してはいるが、何かの事件を期待していることが伝わってくる。

未央子は苦笑しながら続けた。


「行方不明というか、幼い頃に両親が離婚していて、私は父親に引き取られたんです。それ以来会っていなくて」


そう言うと、一瞬は興味を失ったように思えた兵藤夫人だったが、次の瞬間には“母を探す健気な娘への同情”へと素早く切り替えたらしい。

優しげな声色で言う。


「お義姉さんへは私が伝えておきますね。お母さん、見つかるといいですね」


未央子は自身の携帯電話の番号を伝え、


「ありがとうございます。不躾なお願いで申し訳ございません。よろしくお願いします」


最後にそう言って電話を切った。