親愛なる母へ




亮は未央子の目が悲しげに揺れるのを見て、これ以上ここに留まってはいけないと判断する。

久保は、未央子を傷付ける言葉をいくつも持っているように見えた。


「わかりました。押し掛けたりして、すみませんでした。地図、ありがとうございました。……未央子、行こう」


そして未央子の肩を抱くようにして、踵を返した。

久保がため息を残して家に入り、玄関の扉が閉まるのを待って、亮は口を開いた。


「そっくり受け止める必要はないよ。あの人の言うことが全てじゃないから」


しかし、ショックは隠しきれない。

あの優しかった祖父母を送ってやらなかった母親の神経が信じられず、なぜそんなことができるのかと、未央子は怒りさえ覚えた。

そして、姉弟に遺してくれたものを全て持ち去るだなんて、正気の沙汰とは思えない。