親愛なる母へ




やがてそのメロディーもぷつりと途切れ、落ち着いた女性の声が言う。


「はい、お電話かわりました」

「私、長坂といいます」


そこで少し間をあけて、様子を伺う。

“長坂”という名前に覚えがあれば、話が早い。


「ああ……娘から名前を聞いて、お義姉さんかと思ったら。あなた、お義姉さんの娘さんね?」


未央子は言葉を失う。

久保夫人にとって義理の姉である未央子の母とは面識もあるだろうし、そして自身の姪のことを知っているのはおかしなことではない。

それでも突如、母の存在が現れたことで、未央子は動揺していた。


「未央子です」


辛うじて名乗ると、久保夫人は「そうそう、未央子ちゃん」と、懐かしそうに彼女の名を呼んだ。

ふいに、未央子の胸に何か温かい物が込み上げ、同時に胸を締め付けた。

それはおそらく、母という存在の記憶だ。