親愛なる母へ




音符のマークのついた小さな呼び鈴を押すと、昔懐かしい、鐘を打つような音が家の中に響くのが聞こえた。

引き戸を開けて、初老の女性が顔を出す。

その目は未央子の明るい金髪に向き、訝しげな表情に変わる。

未央子はそれを見て、慌てて頭を下げる。


「私、長坂未央子と言います。隣の久保の孫です」


そう言うと、彼女は目を丸くして、未央子の全身を見回す。


「あなたが、久保さんの?……へぇ。お葬式の時には見なかったから、娘さんの所の子かね」

「お葬式?やっぱり……」


暗く沈むような未央子のつぶやきを、亮が引き継ぐ。


「久保さんは亡くなられたんですか?」


今度は亮が品定めされる番だ。

未央子に比べて随分と真面目そうな印象が、彼女を安心させる。