親愛なる母へ




かつては父親が運転する車で走った道を、今日は亮のバイクが駆け抜ける。

そこから見える景色が懐かしいように感じるのは、きっと気のせいだ。

幼い未央子は、車の中ではいつも眠っていた。



ふいに、未央子の記憶の奥から、何かがこぼれ出た。

あの時、眠りから覚めたのに、目を閉じたまま何かを感じていた。

髪に触れる、温かく柔らかな何か。

繰り返し訪れる優しい感触が心地良く、寝たふりを続けていた。



それは、母の手だろうか。

いつも自分を殴っていたはずの手が、優しく髪を撫でるだなんて。

これは、妄想か。

それにしては、やけにリアルだ。